あなただけのラブストーリー
恋に条件はない
いつもの由紀子のメールに成婚コンシェルジュの一ノ瀬は思わずドキッとした。
けれど、「じゃあ次の作戦で参りますか~」と、やる気が沸いてくるから不思議なものだ。
由紀子がパートナーエージェントに入会したのは2ヶ月前。スラリと背が高く、モデル風の美人である。裏表がなく物事をはっきり言う女性なのでわかりやすい。寄り添い自然と応援したくなるタイプだ。「3ヵ月で決められなければ、私は退会します!」最初から意気込んできた由紀子。次々と
結婚していく友人たちに触発され、子供が欲しいと思ったらタイムリミットはもう目の前だと痛感したのだ。
一ノ瀬は、まずは彼女の言う条件に合う男性を何人か紹介していった。やる気十分の由紀子は一人一人と丁寧に会って、相手を吟味していく。その感想が毎回一ノ瀬のところに届くのだが、いつもこの一言が一行目にくる。
「いい人だと思う。経済力もある。だけどキスできないと思ったら結婚なんかできない」これが由紀子の言い分なのだが、全くの正論だろう。そんな由紀子にも、
婚活を進めていくうちに、自然と変化が訪れた。
一ノ瀬を信頼しての言葉だった。
由紀子は気がついたのだ。今まで自分は条件にばかりこだわっていたのではないか、と。それら全てを取り払って、まっさらな状態で探せば、道が開けるかもしれない、と。
さっそく一ノ瀬は動いた。実は最近、由紀子に合うと思える気になる男性がいたのだ。由紀子と同じ年齢の重政は、体が大きく強面。だが、ごつい外見とは違って実にシャイで純粋な男性だった。重政は自分よりも少し若い女性が希望条件だったが、由紀子に会えば絶対に気に入ると一ノ瀬は踏んでいた。というのも、重政はなかなかの面食いなのだ。
スタッフの薦めもあり、あるパーティイベントで二人は出会うと、予想どおりうまくいった。重政から「とてもイイ!彼女と出会うためにココにきたんだ」という感激のメールがすぐに届いた。
積極的で熱烈な重政の想いとは逆に、由紀子の気持ちはどうもハッキリしない。重政について「初めて結婚したいと思った人」とまで断言したのに、いざとなったら「まだわからない部分が多くて」と、なぜか煮え切らないのだ。
今まで感じたことのなかった「戸惑い」が彼女の心を包んでいた。
一ノ瀬は、そんな由紀子の微かな気持ちの動きも読み取っていた。
「由紀子さん、重政さんのこと本気で好きになっちゃったのね。だから、自分の気持ちが急に怖くなったんでしょ?」
「そう……だと、思う」
下を向きながらバツが悪そうに、そして恥ずかしそうに由紀子は応えた。
早速、重政にプロポーズを即すが、彼はもう「家族に紹介したい」という言葉でプロポーズをした気持ちになっていた。 「まだ、はっきり言ってもらっていない」という由紀子の不安を伝えるなど、はがゆい気持ちのやりとりを乗り越え、ようやく結婚へのプロローグへとたどり着いた。
後日、新宿店に結婚の挨拶に来た二人は、まさに幸せのオーラに包まれていた。手土産を袋ごと渡そうとする由紀子を、重政は優しくたしなめた。舌を出しながら笑顔で照れる由紀子に「やっぱり重政さんには弱いのね」と一ノ瀬は思わず微笑んだ。
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