あなただけのラブストーリー

懐かしい視線 第1話

深夜、帰宅した美紀はメイクを落とすため洗面台に向かった。

鏡の中のすっぴんの自分と一時向き合う。 ――何これ、疲れた顔……。
37歳、独身。俗に言われる「アラフォー」なんて世代に突入した女の顔がそこにあった。 笑い皺も目立つし、目の下にはうっすら隈も出来ている。 自分ではまだまだ若いと思っていても、こうして鏡に向き合えば、やはり年齢を意識せずにはいられない。 今日は飲みにも行かずにまっすぐ帰ってきたのに、もう日付が変わろうという時間だ。 いまの仕事、大手百貨店の販売事業部に移ってからは、毎日こんな時間にならないと帰宅できない。 32歳にして希望の部署に移ってから4年。仕事は楽しいし、それはそれで納得しているけど、独りの部屋に帰ってきたこんな瞬間は、ふとため息をついてしまう自分がいる。 ――今年のクリスマスも響子たちと女だけのパーティーかしら……。 もちろんそれも楽しいけれど、子供を産むとすればそろそろ何とかしなければ、とも思う。 「けっこん、かあ……」
思い切ってパートナーエージェントに登録してから、何人かの男性を紹介してもらったが、正直あまりピンと来る人がいなかった。 自分の条件が厳しすぎるのかとも思ったが、気が合う男性だったらそんなに条件にこだわるつもりもないのだ。 「要するにフィーリング、なんだよなあ……」
先日パートナーエージェントのお店に足を運んだ時に、新たに紹介された男性のことが頭に浮かんだ。土浦在住の40歳。横浜に住む自分にとってはちょっと遠いし、身長もそんなに高くないし、自動車ディーラー勤務なんてちょっと地味だし―― マイナスポイントばかり数え上げてしまったが、彼と会う気になったのは、写真で見た彼の目が、どことなく昔実家で飼っていた犬に似ていたからだった。 「そんなこと絶対言えないよね」 化粧水を頬にパチャパチャと音を立てて叩き込みながら、美紀はひとり苦笑した。 「でも、そんなことが案外決め手になるのかも……」
彼……隆也さんだったかな。どんな人なのかな……美紀は鏡を見ながらつぶやいた。

「カノジョ欲しいなあ……」

会社からの帰り、小雨の国道6号線は今日も年末の渋滞が続いている。 思い出したようにウインドウを横切るワイパーの音が、仕事で疲れた隆也の眠気を誘う。 ためらいがちに進むテールランプの赤い列を長めながら、ハンドルを握る隆也はさっきからそんなことばかり考えている自分に気付いて、ひとり苦笑した。
先月成婚コンシェルジュさんから紹介された、横浜の美紀さんという女性。 土浦の自分とはちょっと遠いか、と初めは思ったのだが、彼女のプロフィールの言葉にどこか惹かれるものを感じて、会ってみたい、と思ったのだった。 特に理想の夫婦として 『お互い心が成長出来て、生きている意味を見出せる関係』とあったのが、とてもいいと思ったのだ。
――生きている意味、かあ。
仕事は好きだしやり甲斐を感じているが、今の自分に 『生きている意味』があるかと問われると、はなはだ自信がない。 でも、心に決めたパートナーと一緒に歩む人生なら、そこに『生きている意味』が生まれるのではないか。そう思うと、ますますパートナーが欲しいと隆也は思うようになったのだ。
美紀さんは週末が休めない仕事みたいだけど、どんな人なんだろう……きっと生き生きと仕事をこなす女性なんだろうな……フロントウインドウに滲む赤いテールランプを眺めながら、過去に紹介された女性たちのことをふと思い出してみる。
数人の女性たちと連絡を取り合い、会ってお茶をするくらいまでには行ったのだが、その先になかなか踏み込めなかった。つい本音を言って、あきれられたらどうしよう。軽蔑されたらどうしよう……そんな自分の弱さが原因だったと今ならわかる。
でも、今度のこの人は違う。今度こそ、素直な自分が出せそうな気がする。隆也は青信号で右足に力を込めてクルマを発進させた。

あなたの婚活を、私たちコンシェルジュが責任をもってサポートします。ご来店お待ちしております。

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