あなただけのラブストーリー
星に想いを
「親や友人に相談してもやはり考え直した方がいいんじゃないかって・・ でも」
まだ肌寒い2月の新宿店、置かれた珈琲にはまだ一度も口をつけていない百合の瞳に、ゆっくりと成婚コンシェルジュ長岡の目線がぶつかる。
「でも、彼を簡単に失いたくないんです。ちゃんと彼と向き合いたい、彼が正直に話してくれたように、私も彼に正直でありたいんです。」長岡は深く頷きながら、潔い女性だなと率直に感じていた。
こんな素敵な二人だったらきっと上手くいく、きっとどんなことでも乗り越えられる。百合の強い眼差しにはすでに“愛”と呼べる確かな面影が息づいていた。
「その気持ちを素直にぶつけてみたらどうかな?正人さんが誤魔化したり、百合さんと真剣に向き合ってくれなかったら、その時は私も止めた方がいいと思うの。」温かい長岡の言葉に百合は静かに耳を傾ける。
正人から自分はある持病を抱えていると知らされたのは先週の事だった。 唐突な話に百合は正直、戸惑いを感じた。 また、これは自分が抱えられるような問題なのかとも迷いが生じた。 しかしながら、正直に話してくれた正人の誠実さにも心動かされていた。 「そうですよね。分かりました」 百合の心にも確かな決意が芽生え始めた。 そうだ、まずは彼ともう一度話し合ってみよう。 そして彼を信じてみよう。彼はそれに値するだけの男なのだ、と。
年の明けすぐの1月4日のことだった。 初めてパートナーエージェントでお互いを紹介された時に「あっ」と二人同時に自然に吐息がこぼれた事を長岡は見逃さなかった。
トントン拍子に事は進んだ。紹介された当日には二人同時にOKのサインが支店に届き、週末には早速二人きりでデートに出掛けた。その後も順調に電話やデートを重ねていき、下旬には百合の誕生日を迎えた。正人は百合のために、夜景の見える素敵なレストランを予約しておいてくれた。「ありきたりかな?」と照れながらも正人は百合の歳の数だけのバラの花束を用意してくれた。「嬉しかった!誕生日を覚えていてくれたことも、何か普通に感動しちゃって・・」そうハニカミながら桜柄のハンカチを唇に当てる百合を見て、長岡は微笑ましく感じる。
実際、お互いが大切な存在であると確信するまで時間はかからなかった。 会うたびに百合は正人のおおらかさに魅かれていった。 いつも落ち着いている正人であったが、天体観測好きで星の事となると少年のように無邪気に話す彼に好感をもっていた。
正人もまた、百合の女性らしく柔らかい雰囲気が好きだった。 「毎朝、パンが焼ける匂いで目が覚めるような、そんな家庭を造りたいの」と春風のようにふんわりと語る彼女を心から愛しく思っていた。
百合は小さなチョコレートの箱をテーブルに置いたまま、正人に自分の正直な気持ちをぶつけてみた。 これからのこと、自分が不安に思っていることの全てを。その問いかけの一つ一つに、正人は言葉を選びながら丁寧に答えてくれた。病気のこと、しっかりと自分で管理ができていること、そして、これからの二人の将来のこと。
百合は今更ながら正人の誠実な人柄に感服した。彼はやはり心から信用できる人間なのだ、一生をかけて自分がついていける男性なのだ、そしてそんな正人を今誰よりも大事に想う自分が確かに存在することを。 百合の確かな気持ちを知った正人にももう迷いはなかった。
3月上旬、お気に入りのプラネタリウムに彼女を誘う。金曜夜のプラネタリウムは意外にも空いていて、一番後ろの席に二人は静かに腰を下ろした。最後のエンディングが流れる中で正人はそっと囁いた。「今年タヒチに一緒に行こう、本物の南十字星をどうしても二人で見たいんだ」「それって・・」百合の唇が喜びで震えていた。
3月14日ホワイトデー、長岡は朝からそわそわしながら、
結婚報告にやってくる二人を待ちわびていた。
一足早い、春の訪れのようだ。
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