あなただけのラブストーリー

懐かしい視線 第2話

もうすっかり正月気分も抜けた1月下旬の日曜日

もうすっかり正月気分も抜けた1月下旬の日曜日、隆也と美紀は新宿のカフェにいた。お互いに休日の都合がつかず、とうとう年を越してしまったのである。
お互いに楽しみにしていた最初のコンタクトの日ではあるが、やはり実際に対面するとなると、ふたりとも表情がこわばっているのが自分でわかるほどの緊張状態にあった。心配した成婚コンシェルジュに「そんなに堅くならないで、リラックスして楽しんでくださいね」と肩をたたかれたほどだ。だから初めは一抹の不安はあったにせよ、美紀の顔を見た瞬間に隆也の胸には高らかにファンファーレが鳴り響いていた。
――かわいい!
その瞬間から、隆也としてはもう彼女に夢中、になってしまったのである。
美紀のほうは、休日というのに生真面目にスーツを着込んで、カチンコチンに堅くなっている目の前の40歳の男性を見てほほ笑ましいと思いこそすれ、やっぱりちょっとタイプとは違うなあ、と少しだけ冷静に思っていた。しかし、エレベーターに乗る時にちょっとした段差につまずきそうになりながらも、それでもしっかりドアを抑えていてくれたり、まだ冷たい1月の風に「寒くありませんか」と気づかってくれる、そんな隆也の気持は充分に伝わっていた。何より時折こちらをまっすぐ見つめてくる彼の視線に
――ああ、この人はホントに正直ないい人なんだ。 と思うようになり、次第にリラックスしていったのだった。
「お仕事、遅くまで大変なんですね。土日も出勤なんでしょ?」
「でも、その分出勤時間も普通よりはゆっくりですから。それに、お休みはシフトでちゃんといただいてます」
「そうですかあ。でも僕は普通に週末が休みですから、お会いできるとしたら平日の夜しかありませんね。うん、大丈夫、土浦から横浜なんて、高速で飛ばせばすぐですから。商売柄、じゃないですが、僕は車の運転なら何時間でも平気なんですよ」
しまった、何先走ってんだ俺! 言い切ってから、隆也は背中に冷たい汗が流れるのを感じていた。ちょっと強引すぎたかも……

大学時代は自動車部にいらっしゃった、って
プロフィールに書いてありましたものね。

「でも……それじゃあ次の日のお仕事に差し支えるんじゃないですか?」
美紀に気にした様子がなかったので、隆也は心底ホッとした。
「平気です、平気です! あ、でも美紀さんが大変ですよね。深夜ですもんね。そんな時間に女性のところに訪ねて行くなんて、非常識ですよね。すいません」
隆也はコーヒーカップを手に取ると、冷めたコーヒーを慌てて飲み干した。ソーサーにカップが必要以上に当たる音を、美紀に気付かれないように、と思いながら。
「も、もしよかったら、この後どこかに行きませんか? 美紀さん、おなか空いてないですか?」
「そうですね。そうだ、このあたりに新しいカフェがオープンしたって、こないだ雑誌で見ましたよ」
「いいですね、じゃあそこ行ってみましょうか。あ、いえいえ、ここは僕が……」
慌ててレシートを掴んでレジに向かった隆也を見て、美紀は次は私がおごってあげよう、と思いながら席を立った。

隆也が本当に横浜にやって来た時は、美紀は正直驚いた。

なぜならそれが、美紀の仕事が終わった夜11時半だったからだ。ただ「こんばんは!」と笑う隆也の顔を見た瞬間、驚きとともに胸の奥がじんわり温まるのを美紀は感じていた。
隆也は、本心ではちょっと強引すぎるのでは、と少し心配だった。しかしそれより、今度は前のような失敗はしないぞ、という想いが強かったのだ。
――自分の気持に正直に、今度こそ後悔しない!
大学時代に経験したどんなラリーより強いモチベーションで、隆也は高速をひた走ってきたのだった。
その日の隆也は、ほんの1時間ほどファミレスでコーヒーを飲んだだけで帰って行った。土浦から横浜まで、高速を使っても優に2時間以上はかかるだろう。往復4時間以上を、1時間のデートのために。しかも隆也には、翌日普通に朝から仕事があるのだ。しかし美紀がそのことを告げると、隆也は微笑んでこう言うのだった。
「いいんです。それより逢いたくて仕方がないんですよ!」

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