あなただけのラブストーリー
セカンドチャンス 第2話
育美の部屋で、誠がくしゃみを連発していた。猫好きの育美の部屋には、3匹の愛猫がいる。しかし誠は猫アレルギーで、どうしても猫と同居できない体質なのだ。
「ごめん、猫はこっちの部屋に入れないようにしてるんだけど……」
誠が来るようになって、居間には猫を入れないようにしているのだが、どうも留守の間に猫達は自由に歩き回っているらしい。ドアノブを自分で回してドアを開けてしまうような猫達なので、こればかりは育美にもどうしようもないのだ。
「いや、大丈夫。そんなにひどくないよ」
「ごめんね、猫嫌いなのに……」
いつの間にか、1匹が誠の膝に体をすり付けている。猫嫌いの誠だが、猫には好かれているようなのだ。
「こらっ!こっち来ちゃダメでしょ!」
猫を隣の部屋まで追い立てて行きながら、育美はそっとため息をついた。
――どうしよう……この子達を捨てるわけにもいかないし……。
ずっと猫と一緒に暮らしてきた育美にとって、猫は家族なのだ。
――なんでよりによって猫アレルギーの人なのかなあ……。
猫と彼、選ぼうにも選べない。育美はもう一度、そっとため息をつくのだった。
「どういうこと!?そういうことならそうと、最初に言ってくれなきゃ困るじゃない!」
「だから……オレもそういうつもりじゃなかったんだけどさ」
結果としてそうなってしまったのだ、と誠は口をとがらせた。
仕事を引退し、趣味の絵を描きながら悠々自適に暮らしている誠の父親が、銀座のギャラリーで個展を開くので見に来て欲しい、ということだったのだ。
育美としては、その場で父親に会うことはない、という誠の言葉を信じて、軽い気持で足を運んだのだった。しかし、実際に行ってみると話は全く違っていた。
「結局、お父さんとお母さんも一緒で、その後家族でお食事なんて……そうなると知ってれば、私だってもっと違った格好して行ったのに! こんな普段着で、お化粧だってちゃんとしてないし……初対面だったのに、もう最悪じゃない!」
成り行きとはいえ、そうなるかもしれないことは育美だって予想はしていた。だから誠にしつこく確認した。 それなのに誠は「大丈夫大丈夫、おふくろは来ないって言ってたし、親父だって当日は忙しいから、それどころじゃないって」と軽く言ってとりあってくれなかったのだ。
「だから……さっきから何度も謝ってるだろ!オレだってそんなつもりじゃなかったんだからさ。それに親父もお袋も、育美のことを気に入ってたみたいじゃないか。だからへーきだよ」
「そういう問題じゃないの! 私が恥ずかしいのよ!それに……」
彼の両親に紹介される、という大イベントが、こんな形でなし崩しに済んでしまったこと、そしてそれをさほど気にもしていない様子の誠に、育美は憤っていたのだ。
――結局、誠にとってはその程度のことなんだ。
その認識は、怒りで沸騰した頭に静かに浸透していった。そしていったん冷えていくと、そのままどこまでも冷えて凍りついてしまうように育美には思えた。
その夜、誠が帰った後の部屋で、育美はひとり、冷えた手足を抱えていた。
――もう、やめようかな……。
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