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家事はやりたい方が、呼び捨てしない、玄関まで見送る――澤夫婦のハッピールール

この別れが最後かもーー玄関まで行って、扉が閉まるまで見送る

森本

それ以外に、夫婦生活の中で心掛けていることはありますか?

澤 円

先ほども触れましたが、「ありがとう」と必ず口に出して言うことですね。朝のあいさつも必ずするようにしています。

また、玄関まで見送ることも習慣になっています。玄関まで行って、扉が閉まるまで見送る。どちらが先に家を出るにしても、必ずそうしています。これはいつの間にか習慣になっていたのですが、とてもいい習慣だと感じています。

森本

その習慣を続けているのはなぜでしょうか。

澤 円

TEDで公開された動画の中に、ベンジャミン・ザンダーという指揮者の「音楽と情熱」という講演があって、こういう話が紹介されています。

彼はある時、アウシュビッツ強制収容所に収容されながらも生き残った女性と出会いました。彼女は幼かったころ、アウシュビッツに向かう電車の中で、弟の靴が脱げているのを見て「どうしてあなたは自分のこともちゃんとできないの?」と叱ったそうです。

それが、弟にかけた最後の言葉になってしまった。その後に生き別れになり、弟は生き延びることができませんでした。

だから彼女は「この言葉が最後になるかもしれない」と常に意識しながら言葉を発するようにしている、という話です。

澤 円

また、僕が宮城県の女川町に行った時、町役場の方からこんな話を伺いました。町役場が津波にのまれて屋上にまで波が来たとき、彼はひたすら「どうして今朝、娘の頭をなでなかったんだ」と後悔したそうです。

その日の朝、ちょっとしたことで娘さんを叱ってけんかになり、怒って家を出た。津波にのまれそうになりながら、「自分はなんてバカなことをしたんだ」とずっと思っていたと仰っていました。

幸いなことに、彼もご家族も無事でした。それからは家を出るときには、後悔するようなことを絶対言わないようにしているそうです。

この2つの話が、僕がこの習慣をやめない理由です。それに、投資ゼロなんですから、簡単でしょう?いい気分で家を出ると、その日のパフォーマンスがよくなります。投資対効果は抜群です。結婚する人は必ずやった方がいいと思います。

もう1つ習慣にしているのは、名前を呼ぶときに必ず「さん」を付けること。「お前」と呼んだり、呼び捨てにしたりすることは絶対ありません。

森本

奈緒さんも呼び捨てや「お前」という呼び方には抵抗がありますか?

澤 奈緒

「お前」という呼び方は、距離が近すぎるように感じてしまいます。何をやっても許されてしまう感じがして……。「お前」と呼ばれるのは、あまり好きではないです。

彼は今も昔も、私のことを「お前」とは呼びません。

澤 円

僕は、ずっと「お前」とは呼ばない主義なんです。夫婦の関係は対等なのだから、当然だと思っています。

森本

他に心掛けてらっしゃることはありますか?

澤 円

食事中にテレビを見ないことです。もともと2人とも、食事中にテレビを見る習慣がなかったので、テレビは食卓とは別の部屋に置いています。ですから必ず向かい合って食事をします。

澤 奈緒

でも食事中、2人ともノートパソコンを置いているんですよ(笑)

澤 円

朝は、仕事関係のメールチェックが必要ですから。

パソコンを見ているといっても仕事ばかりしているわけではなく、ネットサーフィンをしながら、彼女と情報共有している感じです。

澤 奈緒

2人でかわいい動物の動画を見ることもありますね(笑)

同調圧力は幸せのピークを下げるだけ。いろいろな夫婦・家庭が在っていい

佐藤

平成の終わりが近づき、これまで常識とされていた結婚観・家庭観も変わるべきときが近づいているようにも思います。それでも「男性が働いて女性が家を守る」「男性の方が女性より稼いでいないとダメだ」といった昔からの固定観念は根強く残っているように感じます。

佐藤 茂

澤 円

近著『あたりまえを疑え。自己実現できる働き方のヒント』を書いた動機が、今のお話と深く関わっています。

これまで“あたりまえ”とされてきたことは、その価値を失ってきています。“あたりまえ”というのは、同調圧力でしかありません。同調圧力は、幸せのピークを押し下げるものだと僕は考えています。

「同調しなくてはいけない」ではなく、「自分の調子でいいんだ」という考え方に変わることができれば、いくらでも幸せのピークを上げていける。そういう思いもあって、この本を書きました。

「あたりまえだ」「普通こうでしょう?」と言われることが自分にとって“あたりまえ”でなかったときに、自分にうそをついてまで受け入れる必要は全くありません。自分にとっての“あたりまえ”を貫き、自分がやりたいことに最大限の時間を割くことが、一番ハッピーなことですから。

佐藤

昔から続く“あたりまえ”にとらわれるよりも、自分の気持ちに正直に生きるべきだということですよね。

例えば今の世の中、「結婚してからも働きたい」と考えている女性はたくさんいます。そうした考えを曲げてまで「女性は家庭に入るべき」という考え方に迎合する必要はない。違った結婚・家庭のかたちがあり得る、ということでしょうか?

澤 円
澤 円

そうですね。例えば「女性がキャリアアップするために、男性パートナーを見つける」ということも、今後は十分にあり得るのではないでしょうか。

結婚相手に選んだ男性が中心になって家庭を支えてくれるかもしれませんし、違うかたちで働きたい女性を家庭から解き放ってくれることもあり得るでしょう。

森本

これまでの“あたりまえ”の結婚観・家庭観を疑う必要があるのなら、これから結婚を考える人は、どのような価値観を持って家庭を築いていけばいいと思われますか?

澤 円

「何十年経っても、すごく楽しい時間を過ごせる」ことだけを重視すればいいと思います。

夫婦や家庭の在り方には、いろいろなかたちがあっていいんです。押し付けられた価値観の中で生きることは、ハッピーではないですから。

立派なマイホームを買うよりも、生活の内面を大切にしたい

森本

2人でいつまでも楽しい時間を過ごすことを一番に考える。この考え方を突き詰めると、新しい結婚のかたちが見えてきそうです。

お2人が何十年先も幸せに過ごすために、実践していることはありますか?

澤 奈緒

私たちは50㎡前後のとても古い1LDKの部屋に住んでいます。彼がいつか体を壊したり、会社を辞めたりするかもしれません。そうなったとき、大きな家に住むことに縛られていると、それだけでけんかになりますから。

高い家賃を支払う必要がないから、「何かあってもいいや」という気持ちでいられます。

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森本

かつては「結婚して立派なマイホームを買う」=「幸せ」と語られていましたが、お2人の幸せはそういった外面的な部分にはないということですね。

澤 円

家を見た人からは「質素な暮らしだね」と驚かれます(笑)。けれど僕らは、生活の外面的なハードウェアよりも、生活の内面、ソフトウェアに幸せを見出しているんです。

家にはお金を使いませんが、欲しいものは買いますし、積極的に旅行するようにしています。外面的なハードウェアに時間やお金をかけなくても、別のところにお金をつかった方がハッピーでいられると思っています。

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